6月に行われた、Textile Exchange JAPAN DAY。ソーシャルな取組みやエシカルな商品に注目が高まる今日、繊維製品もその重要な役を担っていることはEFJでも日々ご紹介しております。では、そもそもなぜ今ニーズが高まっているのか?企業にとって認証を受けるメリットとは何なのか。アメリカのNPO Textile Exchange(テキスタイル・エクスチェンジ:以降TE)のAnne Gillespie 氏に世界の動向を含めお話頂きました。日本の企業はどのように関わっていけるのか考える貴重な機会となりました。
TEの説明をするAnne氏 photo by:特定非営利活動法人ACE
Textile Exchangeとは?
アメリカの国際NPO、繊維業界における持続可能性を高めるべく、認証をはじめとする活動を行っている。10カ国に20人のスタッフがおり、農家やメーカー、製造業、ブランドそしてGOTSを含めた様々なアクターと繋がりを持っている。3つのエリア「繊維と原材料」「サプライチェーンと製造」「インテグリティーと基準」をコアとし、繊維産業が、水・土壌・空気・人類に与える負の影響を減らすため、研究、レポート、基準策定、繊維業界での講演を通して、情報提供やネットワーキング、アクション促進を行う。
Anne氏の講演内容に入る前に、今、世界で起きている沢山の課題が繊維業界に、そして私たち消費者にもつながっていることを整理したいと思います。自身が使う製品はどこで、誰がどの様につくり、そしてその製品がこの地球にいかに影響を及ぼすのか。これらの現状をきちんと知りたいと考えている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。そこでまずは、身近な日本の繊維業界に目を向けてみたいと思います。
経済産業省より<水色が供給量、ピンクがアパレル市場規模>
1990年の供給量は16億着でしたが、2010年には40億着に激増しています。
これだけ多く供給されているのに、市場が縮小しているのはファストファッション化によりの流れにより洋服1枚当たりの単価が下がっているためといわれています。
平成22年2月の中小企業基盤整備機構の資料によると、衣料品の2009年の供給量と排出量は、国内供給量:111万トンに対し、総排出量:94万トン!!消費されるのは、わずか17万トンです。上記のグラフでは、2009年で約38億着とあるため、17万トン=約6億着しか消費されていないということがわかります。(引用:THE HUFFINGTON POST,2016)
このような数字から、安価な衣料品の大量生産消費が引き起こす、廃棄物、生産者の低賃金、土地利用、環境汚染…といった社会の問題と個人消費との繋がりのイメージが少しついたところで、講演の内容を紹介していきたいと思います。
講演: 「世界の繊維業界の現状」
Anne Gillespie (アン・ギルスピー)氏(Textile Exchange認証基準部長)
今日、世界が直面する課題とは?
ご存知の通り、この世界中には多くの人が住んでおり、世界人口は2050年には90億人に達すると推測されています。その人口がテキスタイルを消費し、廃棄するとしたら…、私たちの世界には課題が山積みであると分かります。実は、繊維の廃棄物は埋め立て地の5%近くを占めているといわれるほど大量であり、一部リサイクルの動きも見られるものの、未だ十分とは言えません。私たちが製造するすべてのものに温室効果ガスの問題をはじめとする環境課題が付きまとっているのも事実です。例えば、通常の方法では1枚のTシャツを作るのに、700ガロン(約2700リットル)もの水が必要となり、2009年には、11兆リットルの水が598億キロの繊維製品の生産のために使用されました。世界銀行によると、産業界の排水汚染の20%は繊維の加工と染色が原因とされています。このように繊維産業は世界に対して非常に大きな影響を持っていると言わざるをえないのです。それだけではなく、繊維産業の関連だけで世界の二酸化炭素排出量の10%を占めているという報告もあります。こういった課題があるにも関わらず、現状を見てみると、ステークホルダー、中でも消費者が地域や自然環境に焦点を当てるのではなく、あくまで「ブランド」を判断軸に消費を行っているという状況があります。
この現状を受けて、環境NGOや動物愛護団体といった活動家団体は、ブランド標的とし変革を求めて働きかける積極的なキャンペーンをスタートしています。
繊維業界の今はどうなっている?
続いて、繊維産業界の動向に目を向けると、コットンの市場規模は減少傾向である一方、合成繊維、化学繊維は伸びてきています。ウールは安定傾向にあり、セルロース系合成繊維は少しずつ伸びてきています。そして、それぞれの繊維が個別の課題を抱えているといえます。
コットンは、水と土地の大量使用、化学薬品、土壌汚染、安全と健康という問題を持ち、
ポリエステルやナイロンといった合成繊維は、二酸化炭素の排出や、石油の使用。ダウンについては動物の権利問題が。ウールや毛皮には同じく動物の権利問題と放牧による土地への影響が懸念されます。そして一見、環境に優しいとされる、セルロース繊維や植物由来の天然繊維についても、森林破壊、生物多様性、気候変動といった問題があるのです。
このように課題は山積みですが、幸いなことにこれらの諸課題には解決策も出てきています。繊維産業はこの解決に対し、革新的な役割を担い、多くの人が情熱を傾けているのです。
まず、はじめに多くの人が目を止めたのが、「リユース・リサイクル・アップサイクル」でした。最近は廃棄物を出さないデザイン、解体・再利用しやすいデザインも登場してきました。例えば、フリースのジャケットのボタンに金属を使わず、プラスチックを用いれば、一気にリサイクルすることができます。また、多くのブランドと協働し古着の回収を行うプログラムも増えてきている。リサイクル技術についても日々開発がなされています。日本の帝人株式会社が世界ではじめて実現した「ケミカルリサイクル技術」は、古くなったポリエステル製品から、本来の石油を原料つくるのと同じ高純度なポリエステル原料を精製することを可能にしました。また、生分解可能な繊維に関しても新しい動きが出てきています。オランダのAvantium(アバンティウム)社はバイオマスからバイオポリマーに転換する新しい技術を生み出し、フランスのArkema(アルケマ)社はキャスターオイル(ひまし油)から作ったポリアミド(ナイロン)を市場に送り出しています。下降傾向にある天然素材の価値も再発見され始めています。バナナやカポック(樹木を伐採することなく繊維質が実から採取され、栽培に農薬や化学肥料を使うことがないため環境負荷の小さい素材として知られる)という素材から繊維にする新しい種別のプロジェクトも始まっています。
これらの取組すべてにおいて重要なことは、原料が良ければいいというわけではなく、そのすべての生産過程が透明性を持って明らかに公開されることです。例えば、バンブー素材と聞くとそれが天然素材であることから一部の人は良い原料であると考えられるすが、伝統的な技法で加工すると有害物質を排出するという側面があるのです。そこで私たちは常に「ライフサイクル・アプローチ」を取るように勧めています。(ライフサイクル・アプローチとは、私たち一人ひとりの選択がライフサイクルの各段階で起きることに影響を及ぼし、それが結果としてトレードオフのバランスを図り、経済・環境・ 社会の調和に良い影響を与えることにつながる、と気づくこと。つまり、私たちの日常的な選択-たとえば、 電力や新しいTシャツの購入が、全体的なシステムの一部分としてどんな意味を持っているのかをわかりやすくする考え方。(UNEP,2004)
企業はどのように取り組んでいるのか
通常、企業は少ない資源で大きなインパクトを得ることに関心を寄せるという特徴があります。その例をいくつかご紹介すると、スイスの化学会社Claliant(クラリアント)社は Advanced Denim(アドバンスド・デニム)という新しいデニムの生産方法を打ち出し、水の使用を92%削減、エネルギー消費量を30%削減、綿の廃棄物を87%も削減することを可能にしました。
また、HUNTSMANは新しい染色技術を開発し、50%の節水と時間短縮、70%もエネルギー消費量を削減しました。これだけでなく、世界各地で様々な事例があがってきています。中でも私の注目する新しい手法のひとつに「ウォーターレス・システム」、水を使わない技術があります。
オランダのDyeCoo Textile Systems (ダイクー・テキスタイル・システムズ)は再生二酸化炭素を利用する技術を用いて、生地染色工程において水を使用しない染色を可能にしました。加えて、従来のデジタルプリンティングやレーザー染色という技術も発展してきており、これまでの課題となっていた、所要時間の長さとクオリティ問題も徐々に解決されてきています。
エシカル素材代表、コットンの現状は?今後の動向はどのように?
コットンは、世界約80カ国で生産され、アメリカのような先進国で大規模栽培されているものから、インドの小規模農家のように家族経営のものまで多様です。世界には約1億軒の綿花農家がおり、2億5千万人が綿関連の仕事に従事しているといわれます。そのため、繊維産業の中でもとりわけ多くの人に影響を与えており、その大半が価格競争に直面しています。また、世界の綿花栽培量のうち、70%がGMO(遺伝子組み換え)コットンであるとされます。このようにコットンは世界規模で一大産業となっていることが分かります。しかし一方で、この素材は多くの社会課題と関連しています。環境問題・社会経済的課題・土地利用と土壌の劣化・モノカルチャーによる生物多様性・GMO・水の大量使用・化学薬品・気候変動などです。加えて、社会的側面に注目すると、農家の家族とコミュニティーの福祉・児童労働・債務労働という経済的貧困による弱者の存在も忘れてはなりません。コットンのライフサイクルに目を向けると、原材料のステージが環境に最も大きい影響を持ち、また染色加工、縫製現場では労働者への影響が顕著になる。そして、使用から廃棄までこのサイクルにおいては消費者が一番大きな力を持つといえます。しかし、「消費者を変える」とのは何よりも難しい課題であるといえます。
続いて、通常のコットンとオーガニックコットンの違いを比較してみたいと思います。通常のコットンの場合、まず種に防虫剤や殺虫剤が使用され、そしてほとんどがGMOです。成長の過程では単一栽培で化学肥料に依存し、大量の水を必要とするため灌漑設備に頼ることになり、環境影響が懸念されています。そして飛行機を使って有毒な除草剤を広範囲にまく場合があり、これも同じく周辺地域への環境影響と人体への健康被害が問題視されています。
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アラル海は中央アジアのカザフスタンとウズベキスタン両国の間にまたがる塩湖。
アラル海は人為的な計画により湖水が干上がり、現在も縮小し続けています。1960年代から、砂漠を農地に変える事業を行う為、灌漑用水として、大量の水を取水していたことが原因とされ、特に綿花栽培に大量の水が使われてきました。
一方で、オーガニックコットンは、健康的な土壌を使うため土壌が水を溜めやすくなります。肥料はコンポストで作ったものを用いて混作で栽培を行います。この結果、どのような良い変化がもたらされるか。私たち、TEは「オーガニックコットンライフサイクルアセスメント」を行い、その有用性を証明してきました。オーガニックコットンに切り替えることで、地球温暖化リスクに対しては46%軽減、土地・水の酸性化については70%削減、土地の不栄養化については26%削減、水消費については91%削減、そして、エネルギー消費62%削減が確認されました。
また、社会経済的な面でも様々な利点が確認されています。フェアトレードへの参加、生産者グループの結成、混作による金銭獲得(平均9つの異なる作物をオーガニックコットンと同じ土壌で育てるため、換金作物や食糧確保につながる)、女性の活躍、コミュニティーの活性化などです。このようにオーガニックコットンの利点は様々な分野で期待されていますが、その市場規模は未だ広まりが小さく今後の努力が必要であるといえます。(2011~2012年の世界のコットンの総生産量は、2,710万トン。そのうちのオーガニックコットン生産量は13万8000トン。割合でいえばわずか1%にも満たない、0.5%と報告されています。)
そこで、市場拡大の際に重要となるのが “Integrity”(インテグリティー:誠実性)であると考えます。TEの3本柱のひとつでもある、Integrityは持続可能性の基礎であり、私たちはそこに認証という形を通して貢献しようとしているのです。なぜならば、オーガニックコットンをただ売ったり買ったりするだけでは十分といえず、「オーガニック」であると証明出来て初めて意味を持つと考えるからです。消費者に価値を伝える以上は、それを証明することが必要があるのであり、企業やメーカーにとっても、不確かな情報を消費者に提供しないというビジネスリスク回避のために役立っています。
以上が、Anne氏による講演内容でした。TEでは、2016年10月にもドイツのハンブルグで産業界の代表が集い、今後のビジネスモデルについて意見交換を行う会議を開催予定だそうです。果たして日本からはどれくらいの数の企業が参加するのでしょうか。一社でも多く、このような現状に目を向け取り組みに参加してくれることに期待しています。そして、そのために一消費者ができることは何なのか引き続き発信していきます!
<文:丹波小桃>
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